礼文華(れぶんげ)の秘境 小幌駅

豊浦町、最近ではフライ級チャンピオン内藤大助選手の生まれ故郷で有名になった町。

その豊浦町の長万部側に、車道はもとより国道への歩道までも存在しないという陸の孤島のような無人駅『小幌駅』があるのを知ったのは最近の事です。『鉄』(鉄道マニア)には秘境駅全国NO.1という駅だそうで、これは一度見ておかなければいけないと思っていた。そんなわけで雪融けを待って早速行って来ました。今回は今年初のTWでの遠乗りです。

函館から約120キロを走り礼文華トンネルを目指します。片道120キロというと往復240キロにもなるわけで、それだけで立派なバイクツーリングになるのですが。今日は移動のための手段としてしか使えませんでした。

   
礼文華トンネル右手に旧礼文華トンネルがあり、その前の広場にTWを停めます。
小幌駅に行くためには、まず旧トンネル右手に伸びる林道を1キロ程ほど歩き一旦海岸へ出なければいけません。

 
旧礼文華トンネル。 TWなら林道の1キロ分だけ「楽」出来そうだと思ってましたが、お約束の『林道通行止め』それにこの残雪ではちょっと無理でした。

 
5分ほど歩くと、また『林道のお約束』倒木です。歩きなので関係ありませんが、バイクならちょっと手強そう・・・

 
林道ゲートから15分弱歩くと、右手に沢へ降りる道がついている。下には砂防ダムがあるので、ここを下れば海岸に出られる筈です。雪も殆んど消えて、踏み跡を見失う事もありません。

 
苔むした沢を15分ほど下って行くと、海が見えてきました。 海岸到着。

 
なぜか海の中にポンツーン(桟橋)があります。小幌駅に行く前のもう一つのお楽しみが、この海岸にあるんです。

 
それがこの『岩屋観音』には円空作の仏像が安置されている事。

この手の仏像の作者として有名なのが『円空』と『木喰』。この二人の僧が日本全国を旅して訪れた各地にその作品を残しています。『円空』の作は一刀彫の荒々しさの中に柔和な人柄が伺える作品です。私の僅かな知識では解説など出来ませんが、『円空』は即身仏になられた僧でして、その僧の作品が、『岩屋観音』に納められているそうです。

それでは中に入って見ましょうか。 おっと、その前にちゃんと拝んでから鳥居をくぐりましょう。
中には確かに円空仏6体が祀られていました。
        
 
今から20年ほど前になりますが、函館の美術館で『円空と木喰展』が開催されていた事があり何気に見に行ったら何故だか惹かれてしまい3回も見に行った事があった。それ以来のご対面です。

 
円空仏は簡単な一刀彫とはいえ、仏の微笑みには心温まるものがあります。


        僅かばかりのお賽銭を置いて、しばし観賞・・・さて、目的の一つは達成しました。お次は小幌駅を目指します。

 
今来た沢をほんの10mほど遡れば左手にロープを張られた細い遊歩道があります。
この道で良い筈なので登って行く。するとあたり一面ピンクのジュウタン。

 
カタクリの季節がやってきたんですね。 そばにはアイヌネギも見えます。

 
それにキクザキイチゲやエゾエンゴサクも咲き乱れていました。少し歩くと暑くなってきた。

前回もそうだったが、なにせ今時期のバイク装備は、防寒一辺倒です。隙間風をすべてシャットアウトする機能が要求されるのに対し、こうして野山を歩けば通気性が要求されます。相反する要求に答えられる衣類などありませんから、ここは脱ぐ、脱ぎまくります。モモヒキやらフリースやら全部脱いでかなり涼しくなった。

すると、向こうからガザゴゾ足音が聞こえてきます。かなりビックリしたんですが、音の正体は若いお兄さんでした。お兄さんも驚いたようで、目を白黒させている・・・しばらくすると、そのお兄さんの友人がまた一人やってきた。軽く挨拶をした後に、お互いここへ来た経緯などしばらくお話をします。

彼らは『鉄』のようで、はるばる京都と東京から小幌駅を見るためにやってきたとの事。私が小幌駅を見るために山から下りてきた事に驚いていたけど、そんな事よりも京都や東京から来た彼らの方が私には驚きです。『鉄』ってのは間違いなくヲタクですが、彼ら二人にはヲタク特有な閉鎖的なところもなく楽しい会話をさせて頂きました。それに、こんな山の中で活き活きと輝いた目をした若者に会えて嬉しかった。 彼らに別れを告げて小幌駅を目指しましょう。


途中、ガケから下へ降りられるようにロープが張られている場所があった。かなり危険ですが、ここから海岸へ降りる人がいるみたいです。

さっきから、この辺りが何だか懐かしかったんですが、これでわかった。
この場所は、函館の秘境『寒川』へ通じる道と酷似していたんです。

 
崖っぷちのアイヌネギは採る人もないようでかなり太い。そこから5分ほど歩くと、人工的な建物が見えてきた。
小幌駅はすぐそこです。

 
小幌駅が見えてきた。上の方には国道37号線の橋が見えています。振り返ると左手に駅から下りた乗客のためであろう案内看板が目に留まる。一応線路とホームのある場所に到着しました。ネットでは何度も見た光景ですが、本当にトンネルとトンネルの間は100mほどです。さっきからベルが鳴っていたと思ったら、お姉さんの列車通過のアナウンスが流れだした。すぐにスーパー北斗がもの凄い勢いで通過します。

列車の轟音に驚いて写真を撮るのを忘れちゃった。とりあえず線路を渡り室蘭方向のホームへ行ってみます。

 
こちらが長万部方向                    これも琺瑯看板の一種かな?

 
確かに小幌駅です。

 
便数が少ない時間表。 ん・・・看板左手が気になった。 やはり釣り客も下車するようです。
ヒラメ35cm未満リリース下さいと書いてある。 つまりこの海ではヒラメが釣れる訳ね・・・35cmかぁ〜 
私が釣ってリリースできるかな?

 
すこしお腹が減ってきたので、室蘭側トンネルにある資材置き場風の小屋で、早めの昼食をとります。

  
室蘭側トンネル。  誰もいない・・・のどかです・・・

お腹が満たされた頃ブザーが鳴り出した。また列車が通過するようです。

 
お姉さんのアナウンスがありホーム脇の小さな遮断機が下ります。すぐに長万部方向から貨物列車が来ました。

 
私の目の前を通り過ぎる列車の迫力にちょっとビビッた。通り過ぎる列車の風圧と轟音には慣れてませんからね。
しばらくボ〜ッとしていたら、幼い頃の記憶が蘇えってきました。昔は乗用車なんかお金持ちの家にしかなくて、函館⇔八雲の移動は何時も汽車。函館に住むようになっても大沼へはいつも汽車だった。

あの頃はずいぶん乗ったものですが、今は本当に列車に乗らなくなりました。そんな事を思い出させてくれるこの駅には、私の好きな昭和の時代へと誘う何かがあるみたいです。海側にもどり官舎?資材置き場?のような建物の中を覗いてみた。

 
暗くてなんだかわかりません。 一応トイレも完備されている。

さて、もう少しのんびりしていたいけど、次に行きましょうか。お次は、以前ここの唯一の住人で、今は故人となった『小幌仙人』の住居跡とピリカ浜を見ることにします。それでは本日最後のお楽しみを見に行きましょう。駅から官舎?の横にある踏分を少し登ります。すぐに小幌仙人の住居跡が見えてきた。


小幌仙人を知らない方のために一応説明しておくと、(ネット情報なので責任は持てません)今から20年以上前に小幌駅に住みついた人で、夏場はこれから訪ねる住居跡に住み、冬には駅の待合室(今は閉鎖されています)に住んでいたそうです。(生活の方は貯金を切り崩して使っていたみたいで、たまに室蘭でバイトをしていたらしい)

ここでは食費ぐらいしかお金はかからないでしょうから、悪く言えば『野山のホームレス』だったのでしょう。街中でのホームレスを選ばずに、ここでの生活を選んだということはやはり仙人と言われるのもうなずける。その仙人も数年前にお亡くなりになり、今は仙人が住んでいた廃屋が残されるのみとなっています。


思ったとおり、仙人の住居跡は布団もそのままだし、生活用品で溢れかえっている。

そういえば、先ほど会った『鉄』の若者がここを訪れた際にこんなことを言っていた。「今、新しい人が住み着いているようですよ・・・留守のようでしたが・・・」と確かにそう言われてみれば、そんな風に見えない事もない。しかし、あきらかに布団は水分を含んでペッタンコだし、ここでの燃料はマキのはずですから、そういった生活臭が全くしません。やはり無人と思われます。


水場が確保されています。

 
どうでもいいけど、この生活感一杯の道を潜り抜けるようにして通らなければピリカ浜へは行けないようです。

 
仙人宅?を抜けるとネコの額ほどの開けた空間があり、そこには仙人手作りであろうベンチが点在しています。
ここがピリカ浜のビューポイントでした。


まさに絶景です。

 
絶景観賞後ベンチに腰を下ろし一休み。 私の頭上に小幌仙人が20年間見続けたであろう空がありました。
名残惜しいのですが、そろそろ帰りましょう。

 
小幌仙人宅を過ぎ小幌駅へ戻ります。 もと来た道を15分ほど歩き、岩屋観音の海が見えてきた。

 
そこからまた沢登り、20分ほどで砂防ダムが見え林道と合流。 行きには無かった落し物発見・・・シカさんですね。


林道を15分ほど歩くと国道37号線が見え、礼文華の秘境訪問も終了です。

今回、岩屋観音、小幌駅、そして礼文華の海岸を訪れて本当に良かった。年度末の忙しさ、そして今年もGWに休みが取れそうもない私にとって、十分な『癒し』を与えてくれた場所でした。

また是非再訪したいものです。

 帰り道に寄った紅葉山線へ進む
    
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